日本環境教育フォーラム(JEEF)が発行するニュースレターにESDの現場の取り組みについて寄稿させていただきました。2015年1,2月号に掲載されています。
ESDとは、「持続可能な開発のための教育」。日本が国連に提唱して、2005年から10年間の普及のキャンペーンが展開されていました。今年は、その10年の最後ということで、ユネスコ世界会議が日本で開催されました。
ESDの地域での取り組みを書いて欲しいと依頼がありました。
被災地の現状と今の関わっている取り組みをESDの視点で捉え直して、
書き始めたのですが、あっという間に文字数の制限を超えてしまいました。何度か推敲して、なんとか1ページに収めました。
元々の原稿を日本環境教育フォーラムから許可をいただいて、こちらに掲載します。
「地元が大好きな子ども達を育んでいく」
復興に向けて歩み出している三陸沿岸の釜石市で取り組んでいることをESDの視点から一言で表すとこうなります。三陸沿岸の釜石市における子ども支援とコミュニティ形成の取り組みをご紹介しつつ、復興の現場から見えてきたESDの役割についてお伝えします。
釜石から見える被災地の現状と課題
現地の状況を一部紹介すると、瓦礫の撤去は終了し、区画整理もほぼ確定、現在かさ上げ工事で毎日たくさんのダンプカーが行き交っています。防潮堤や公共施設の整備計画や集落の移転計画も策定されて、復興は順調に進んでいるように見えます。しかし、これはハードの復興の部分のみで、ソフト面の心の復興に向けては、まだまだサポートの必要な状況が続いています。
震災から3年半以上が経ちましたが、仮設住宅には現在約2,300世帯が入居していて、8割以上の被災者が仮設住宅に留まったままとなっています。仮設住宅は、防音が悪く、周囲に十分に遊ぶことのできる場が少ないため、そこで過ごす子ども達は、ストレスを抱えながら日常を過ごしています。実際、岩手県の調査によると内陸に比べて沿岸の市町村の方が、要サポートと判定された小学生の割合が高い傾向が続いています。
震災直後は、地域全体が復興に向けて一丸となってやっていこうという気持ちで一つになっていたのですが、時間を経るにつれて、復興に対する意識の格差が生まれてきています。同じ市内でも、津波が来なかった地域は元の生活に戻りましたが、被災された多くの方々が仮設住宅の生活を送っています。被災された方の中でも、既に自立で家を建て直した方もいれば、先行きが見えない人もいます。これは、市内だけの話に留まらず、市町村によっても、復興の進み具合も異なりますし、被災地と非被災地では、震災や復興に関する情報に触れる機会も違っています。本当の復興を考えると、地域全体が一丸となる必要があります。
地域の自然を活かした子どもの居場所づくり
「地元にこんないい場所があることを知らなかった。」「また、子どもを連れて遊びに来てもいいですか?」これは、今年度に開設した「かまいし森の冒険あそび場」で実施したイベントでいただいた参加者からの声です。
これまで放課後の子どもの居場所づくりを仮設団地で実施してきましたが、仮設の周囲は車通りも多く、騒音の問題もあり、様々な活動を展開するには適している環境ではありません。どこか子ども達が活動する場所を探していたときに、地元の方から、自分の所有する森を自由に使っていいよ、とお声掛けいただきました。
そこは、約60m四方のクリの林で、周辺にクルミやカキの木、大人2人が手を広げてやっと抱えられる大きなケヤキ、その根元にはホコラもあり、昔から大切にされてきた場所だと分かります。仮設からも徒歩数分の場所で願ってもいない環境。すぐに使わせてもらうことをお願いしました。
春を待って整備に取りかかりました。所有者の方を通して、地元町内会の方にも声がけをしていただいて、地区の方々、学生ボランティアなどと共に草刈り、クリのイガ拾い、枯れ枝の整理などの環境整備を少しずつ行いました。さらに、ターザンブランコや大型ネットのハンモック、木の上の展望デッキなどの簡易な遊具も設置しました。手を入れれば、入れるほど気持ちの良い空間になってきて、この森の所有者の方からも、「東屋なんかを作ってココで一杯やりたいなぁ」という声も聞こえてきました。
早速、平日の放課後の仮設団地で開設している子どもの居場所に来ている子ども達と遊びに来たり、週末の子どもキャンプや親子向けの森のようちえんのプログラムで活用を始めました。設置した遊具で遊ぶだけではなく、クリ拾いをしたり、生えてきたキノコを探したり、たまにやってくるリスを見つけて興奮したり、森の中で楽しさ、心地よさを十二分に体感しています。それは子どもだけはなく大人も同じような感覚が味わえます。
そして、この場所の気持ちよさを地域の多くの方にも知ってもらう機会として2014年9月にイベント「森とえほんフェスティバル」を開催しました。絵本読み聞かせ、親子ヨガ、郷土食の提供、わらべうたライブなどを地区の方々や多くのボランティアの協力を得ながら実施し、近隣から約120名の方々に来ていただきました。予想以上の来訪者でしたが、窮屈な感じはなく、それぞれが自分の居場所を見つけてゆったりと過ごしているのがとても印象的でした。代表的な感想として冒頭に紹介した声をいただくことができました。
子ども達のための場づくりとして始った取り組みでしたが、結果として子ども達を通して、地域の人と人、人と地域の自然がつながる場が生まれました。今後も地区の方々と共に少しずつこの森を整備し、子どもにとっても大人にとっても心地よい場を提供していくことで、地域への愛着を育んでいきたいと思っています。
地域への愛着から、地域を担う人材の育成へ
このように三陸ひとつなぎ自然学校では、岩手県釜石市を拠点に震災直後から子ども達の居場所づくりの取り組みをしてきました。避難所や仮設住宅の暮らしのストレスから解放するために子ども達を野山に連れ出したり、川あそびをしたり、漁業体験をしたり、様々な体験活動を提供しています。
ある時、この取り組みが今現状の表面的な問題解決になるだけではなく、この地域の10年後20年後を見据えたときに、非常に意義のあるものにつながると気付きました。ハードの復興は目に見える形でどんどん進んでいますが、将来の復興したまちに主役となって暮らすのは今の子ども達です。子ども達が地域の自然や文化を体験して、地元を好きになってもらうことは、未来の地域の担い手を育成することにつながります。地元を好きになれば、地元のことを大切に思い、地域づくりに参画し、より良い地域をさらに次の世代へとつないでいきます。これがまさに持続可能な地域づくりを担う人材育成の基礎となります。
また、子ども達の育成の場づくりに地域の方を巻き込むことで、子どもが地域内の人々をつなぐ役割も担います。未来の象徴である子ども達のために、汗を流してくれる人が増えて、地域で子どもを育んでいくコミュニティが形成されます。
復興とESD、そして復興の先の地域づくりへ
被災地の復興を考えたときに震災以前の地域に戻すのではなく、より良い地域にしていくことが大切だとよくいわれています。
復興の文脈とESDを重ね合わせると
震災前よりより良い地域をつくり次に世代に手渡していく(SD)
そのために人づくりが大切(E)
被災地でESDという言葉を耳にすることは少ないですが、ESDの考え方そのものは本当の復興を考えたときに重要な考え方です。
今回、震災を契機に人口減少、少子高齢化、地場産業衰退などの地域課題が顕在化し、様々な課題が進行しました。日本全体が人口減少を向える中、これらの課題は被災地だけのことではなく、今後全国各地で向き合う必要が出てきます。私たちの団体のみならず、課題先進地ともいえる被災地では様々なチャレンジがなされています。震災後、各地から多くの支援をいただいていますが、将来的には課題解決先進地として課題解決の手法を各地へお伝えし恩返しができるよう、地域を担う人材の育成を続けていきます。
以前にも紹介しましたが、地域のこれからを考えていく上で参考になる2冊。
それぞれ、視点が違います。
こちらは、新しいデザインの在り方が発明されるのは地方からではないかと感じられます。
3.11後のコミュニティのあり方をとらえ直す。価値観を揺すぶられます。
地域とは何か、コミュニティ、共同体とは何か、これらの社会のかたちをどこに求めるべきなのか、そしてその背景にどんな哲学、思想をつくりだす必要があるのか。
それは震災後の復興を考えていく作業でもあり、同時に、いきづまった現代社会をいかに変えていったらよいのかについての考察でもあった。(「はじがき」より)
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